しかし、大杉とはそんな生真面目な男だったのだろうか? 「反権力」という分かりやすい図式に押し込められてしまい、自らに横溢するエネルギーを打ち上げ花火のようにパーッと爆発させる破天荒な彼の姿が見えてこない。「自由」という言葉にしても、鎌田氏が使うと陳腐な正義に転化してしまう。せっかく魅力的なタイトルをつけているのに、この言葉に込められたはずの疾走する躍動感が全く伝わってこない。
資料を丹念に調べ上げた努力ち?大いに買う。だが、鎌田氏の筆致は硬くて息苦しい。社会悪の追求はできても、人間そのものの面白さを生き生きと活写するのには向いていないのではなかろうか。