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神童

価格: ¥199
カテゴリ: 単行本
ブランド: 文芸春秋
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起こるべくして起こった悲劇 ★★★★☆
たまたま、沢木耕太郎氏の著作で本作について触れていたので
手にしてみました。正直、戦後間もない、日本が貧しかった時代に
ここまで世界を驚かせるような才能を持った少年がいた事に驚きを
覚えました。

ただ、彼を襲った悲劇は、悲劇ではあるのだけれど避けようのなかった
ものなのかな、と言う気もしました。小学生の頃から友達も殆どおらず、
体育の授業も見学ばかりしていた、全てをヴァイオリンに捧げた少年。
ヴァイオリン以外何も知らない・出来ない少年を海外に独りで送り出して
何か起きないと考えない方が異常なのではないか、と強く感じた。
そういう意味では個人的には父である季彦氏の教育感には強い違和感を
覚える。

結局のところ、優れた芸術家となるためには、ヴァイオリンだけでは駄目で
幅広い教養を身につけるべきなのではないか、と言うのが実感。

面白かったのは、最終章で筆者が当時の関係者にインタビューしようとして
「ルーザーである彼を今さら本に書くことに何の意味があるのか」と強い疑問
を呈しているところ。沢木氏の「敗れざる者たち」に代表されるように、日本人は
才能がありながら挫折した人を描くノンフィクションが好きだが、アメリカ人は
そうでは無いのかな、と思ったところ。

いずれにせよ、色々と考えさせられる本ではあります。
「天上的な」とたたえられた天才の悲劇 ★★★★★
海千山千のオケマンが共演しながら本番中に感動のあまり
流れる涙をとめられなかった・・・とか100年にひとりの
天才と賞賛され続けた・・・とか

でもその評価は本人にとっては何でもないことだったの
でしょうか。

こう書くとご本人(冥福をお祈りします)にも親族の方
にも本当に失礼かもしれないのですが、この秀逸な
ドキュメンタリーを拝見すると、何か、なるべくして
あの悲劇が起こったのではないかと思えるイヤな流れが
なぜかできてしまっていたように思えました。
誰のせいというのでもなく、「二十世紀のモーツアルト」
とたたえられたこの天才の悲劇は誰にもくいとめることの
できないものだったように感じました。

でも日本に帰国なさってから、お父様が衛星放送を
テレビで流すとバイオリンを演奏するそぶりを見せた
とあります。

本人にとってもバイオリンは最後まで「善」なるもの
「美」なるもの、そして「真」なるものだったので
しょう。

これだけの演奏をなさった方ですら演奏以外の要素で
こんなにも苦悩しており、音楽が最終的な救いに
ならないのだとしたら、音楽って人間にとって何なの
だろう。と悲しみでいっぱいになりました。
だから、最後の、心のどこかでは演奏したいという
気持ちを持ち続けていたことが何か救いになっています。

あまりにも悲しいこの実話を風化させてはならないと
思います。
楽器演奏を志す人、特にちいさいお子さんに演奏を
教えている方にはぜひ御覧になっていただきたい
と思います。
生きる糧とは何なのか ★★★★★
昭和30年代の初頭、鬼神ハイフェッツさえも納得させる程の才能を
持った少年が、未だアジアの片隅でしかなかった日本に存在した。

留学生を送り出す側も迎える側も心のケアまでフォローするノウハウを
知らない中で、神童・渡辺茂夫は何かに追い詰められ、壊れていった。

自殺未遂から脳に障害を残した渡辺茂夫氏は世間からはとうに忘れ去られた
存在ではあったが1999年8月まで存命であった(享年58歳)

この最晩年の茂夫氏と父・季彦(すえひこ)氏の様子がTVのドキュメンタリー
で放映されるのを見た事がある。

少年時代の茂夫氏は、感情を顔や声に表さず、内面を他人に容易に見せない
人物に見えるが、それとは対照的に、晩年の茂夫氏は障害をもちながらも
ヒトらしい表情をしていたと思った。

この父と子は最初の十数年に失った多くのものを40年かけて、
ゆっくりと取り戻していったのだと思う。