女優のケイト・ブランシェットも含め、6人の俳優がボブ・ディランを演じる。とは言ってもディランの人生をそのまま再現するわけではなく、デビュー以前の彼の心象や、キリスト教に傾倒した時代、さらに彼の歌詞を象徴するビリー・ザ・キッドの世界など、6人が演じるのは、ボブ・ディランの「断面」。そこからひとりのアーティストの素顔を浮き上がらせようとするのが斬新で、このアプローチだけでも本作の意義はあると言っていい。
各パートにはディランにまつわる要素が散りばめられており、細かいネタまですべて発見するのは、コアなファンでなければ不可能なほど。6人の俳優のなかでは、モノクロで描かれるケイト・ブランシェットのパートが、ディランのアーティストとしての生活にフォーカスされているため、最も印象深い。しかし完成後、思いがけずに際立ったのは急逝したヒース・レジャーのパートで、彼のプライベートとダブる描写もあり、役の切実さが痛々しい感動につながることになった。「無意味な歌詞こそ崇高」というディランの思いが、なぜかヒース・レジャーの演技と重なってしまう。(斉藤博昭)
6人のディランをレイヤードしていくライフミクスチャームービー
★★★★☆
ボブ・ディランという人物を、6人の役者が6人の別人という設定で演じるライフミクスチャームービー。現在66歳のディランは1962年にフォーク歌手としてデビューし、その後ロック、カントリー、キリスト教布教ソングなど何度か方向性を変えながら現在も世界の音楽シーンで活躍し続けている。ミュージシャンのみならず映画俳優までもこなす彼は一体どういう人物なのか。
主演の6人は別々に登場し、その関係性は明確に描かれず、なおかつ登場のタイミングが入れ替わり立ち代りで時系列がめちゃくちゃに交錯するので非常に複雑な展開なのだが、本質的にはただディラン1人を描いている点が非常に興味深い。
配役も癖が強い。アメリカを放浪するフォークソングの天才少年を演じたマーカス・カール・フランクリンはなんと黒人の子役。映画俳優時代のディランは『ブロークバックマウンテン』でアカデミー賞主演男優賞にノミネートされたヒース・レジャー(残念ながら2008年にお亡くなりになりました。ご冥福をお祈りします)が演じており、その俳優は映画の中で伝説のフォーク歌手を描く映画に出演中という設定。そのフォーク歌手自体もまたディランと思しき人物であり、クリスチャン・ベイルが演じている。ベイルはキリスト教布教ソングを歌う牧師のディランの役も演じているため、ディランをよく知らない人からみたら何を描いているのかさっぱり分からないような支離滅裂なストーリーだ。
一番目を惹いたのはロック時代。フォーク歌手でデビューして売れてきたのに、急にエレキギターを持って、ビートルズに追従するかのようなロックを歌い出す。反体制的なプロテストソングを期待するファンに総スカンを喰うが、レイバンのウェイファーラーをしてスカしまくる彼は一気にロックスターとなり、アンディ・ウォーホールとその仲間たちが作る60年代ポップカルチャーを牽引していくこととなる。時代の寵児とはまさしくオレのことだ言わんばかりの自信に満ち溢れた彼を演じたのが、なんと女優のケイト・ブランジェット!!まさかこの役を女優が演じるなんて全然想像もしていなかったので、完璧なディランハマリ度に衝撃を受けた(正直最後まで男だと思っていたぐらい)。『エリザベス』、『アビエイター』などの大作でアカデミー賞の常連となり女優としての一級のキャリアを確立している彼女だが、本作でもまたまたアカデミー賞にノミネートされている。結局取れなかったが、一体なぜ受賞できないんだと叫びたくなるほどにオレのハートは完全に奪われてしまった(笑)。
監督のトッド・ヘインズはこの6人をレイヤードしていくストーリーによって、ディランという人が人種・性別を超えた表現者であるということを示唆しているのかも知れない。だがそんなイメージも彼にとってはほんの一時のものなんじゃないかな。「僕はそこにいない」。このタイトルが物語るとおり、我々の期待するような彼は、既にどこか別の場所へ行ってしまっているのだった。
ディランのエピソード越しに聞こえる、「あなたはどこにいるのか」という問い掛け
★★★★★
知り合いが観る前からやたら力説していた映画だったが、やっと見ることができた。見終わって考えてみると、この映画でのディランのエピソードは素材に留まっていて、あくまでも映画のテーマは別にあるように思えた。それは、この映画を見る人たちに対する「あなたの生活にあなたはいるのか? いるとしてもいないとしても、あなたの心はどこにあり、どこに向かっていくのか?」という問い掛けだ。
黒人少年はウディ・ガスリーの生き方をトレースすることに心血を注ぎ、「あなたの時代を生きなさい」と諭される。俳優と画家の夫婦は、自分の目指した理想を見失っていく。フォークシンガーは自分の誠実さに殉じて道を変えるし、放浪者は汚れをかぶって日々をしのいでいく。詩人は言葉を浮かべ続け、ディランのアイコンに最も近いケイト・ブランシェット演じる役は、自分を求心的に掘り下げて自滅する。計六人の主役たちがそれぞれ自分について少なからず惑いながらも、ディランのイメージを確かに分有していることがディラン自身の幅の広さや変化する能力の高さを示しているが、重要なのは、この映画はディランのドキュメンタリーでもなければバイオグラフィーでもないということだ。映画の冒頭に「inspired by Bob Dylan」とテロップが出されている通り、この映画はディランのエピソードを使った上での、映画監督自身による、個人個人が生きていること・生きていくことへの問い掛けなのだと思う。その問い掛けはディランの歌が問いかける仕方と似ているが、ディランとは違う歌を歌っている。最後のシークエンスでリチャード・ギアが独白している部分が、問いかけた言葉への監督の答えなのだと思う。同時に放浪者が、今のディランのありようと重なって見える。
ディランに関わる出来事を知りたい人は、関連の書籍を読んだり複数あるドキュメンタリーを見るほうが絶対にいい。ディラン好きを揶揄するシークエンスがあることも、ディラン好きの人たちの逆鱗に触れた理由なのではないかと思う。ディランをひたすら好きな人よりも映画好き・芸術好きの人のほうに薦めたほうがいいかもしれない映画。
8 1/2好きは必見!
★★★☆☆
ケイト・ブランシェット(素晴らしい!!)のエピソードが、
露骨に「8 1/2」として撮っているところがとても面白かった。
うーん
★★★☆☆
みなさん結構評価厳しいですね。僕は結構好きなんですけど。
正直言って面白い映画では無かったですね、確かに。脚本にあまりヒネリもないし、なんか劇中にちりばめられたディランの細かいエピソードや台詞に対して「ああ、コレはアレね」と答合わせをしているような気分に何度かなりました。結構長くてダレますし。
でも出ている俳優さんの演技はどれも素晴らしく、どのディランもとても魅力的でした。その点を僕は高く評価したいです。俳優に対してね。個人的にはクリスチャン・ベイルとヒース・レジャーが・・・いや、やっぱり全員好きですね。俳優の演技力のおかげで最後まで見ることが出来ました。
ディランファンとしては面白かった
★★★☆☆
ディランのファンなので面白く感じました。
しかし、逆に言うとディランについての伝記的な知識無くこの映画を観たら
ちょっと理解できないかも。
伝記的知識があるから、この場面はこういう風にズラしてるんだなとか考えて
面白いんだけど、それが無いと意味不明な場面の羅列にしか見えないかもしれません。