ジョン・ウーの名を世に知らしめた、86年の大傑作である。同時に、アクションといえばカンフーという香港映画のイメージを一新させ、「香港ノワール」という新たなジャンルを確立した、香港映画界の金字塔的な作品でもある。87年香港、そして台湾の各映画賞を総ナメにし、香港映画の歴代興行収益記録を塗り替える3300万香港ドルを稼ぎだす大ヒットとなった。
香港マフィア内の権力抗争を背景に、組織に身を置く兄と、彼の兄弟分である組の幹部、そして兄の逮捕に執念を燃やす刑事の弟。これら3人の男たちの友情と確執をドラマチックに描く。
幹部役を演じたチョウ・ユンファは本作で大ブレイク。アジア最大の映画スターに昇りつめた。(山内拓哉)
漢の…
★★★★★
今観ると確かに映像は古いし設定もベタかもしれない。
しかしそこには漢がいる。
弟のため…、裏切りにあった友のため…、自分のために全てを無くした友のため…、
また、激しい肉親[兄]への憎悪に突き動かされて…漢たちは銃を取り死地に赴く。
醒めていると言われる現代の中で不器用で無条件な愛と義理・人情に溺れてみるのもたまにはいいのでは?
香港ノワールの金字塔
★★★★★
周潤發(チョウ・ユンファ)や張國榮(レスリー・チャン)の出世作であり、
同系譜の作品群の原点ともなった作品です。
マフィア稼業から必死に足を洗おうとするもしがらみから抜け出せないホー、
そんな兄を深く愛するが故に頑なに拒絶し続ける警官の弟キット、
そしてホーを待ち続ける男気ある相棒のマークの三人を中心に
緊迫感溢れる演出で描かれた人間ドラマです。
周潤發(チョウ・ユンファ)の名ばかりが取り上げられますが、
この映画の本来の主役は狄龍(ティ・ロン)演じるホーです。
家族想いで知的な彼が何故マフィアになったのか劇中では説明されませんが、
最愛の弟にさえ自分の真の境遇を打ち明けられない苦悩、
そこから足を洗おうとする設定に十分説得力を持たせるだけの渋みが
冒頭の彼の佇まいに既に備わっています。
それだけに兄を罵倒し拒否し続ける弟キットの若さや未熟さが際立ってきます。
キットを演じたレスリーは撮影当時既に30歳でしたが
青年というより少年に近いあどけない風貌で
(狄龍と並ぶと兄弟よりも叔父甥に相応しく見える)
純粋ゆえに自他に残酷にならざるを得ない青年を力演しています。
表情や口調がややオーバーに感じる箇所もありますが、
声高に自己主張しなければ自我を崩壊しかねない傷を抱えた役柄からすれば
妥当な範疇でしょう。
妻の誕生日を笑顔で祝うシーンや
兄とその相棒と張り詰めた視線で向き合うシーンなど
下手な俳優が演じればステレオタイプで白々しいものに堕しかねない場面も
彼の豊かな表情が鮮烈で情感溢れる画面にしています。
しかし、この映画の華は何といっても周潤發演じるマークです。
知的で思慮深いホーに対し、
裏社会で覇を競う以外に活路を持ちようがない男を
周潤發が飄々としつつも颯爽と演じています。
正に「亜州影帝」(アジアの映画皇帝)と称されるに足る彼の資質が
この一本に余すところなく発揮されています。
全てをさしおいて素晴らしい
★★★★★
ご都合主義なストーリー、派手すぎるアクション。
批判する材料は余るほどあれども、それを超えて素晴らしい映画。
10数回…いやもっと、数え切れないくらい繰り返し観ても、全てのシーンを諳んじるくらいになっても、まだ飽きない。
公開から多くの年月が経っても、なお香港ノワールの傑作と言われ続ける理由は、観た人にだけわかるのだと思う。
ちなみに、同名(邦名)の映画は多数あれど、ストーリー的につながっているのはIIのみ。それ以外は全く別のストーリーであり、気が向いた人以外にはお勧めしない。
だがこの映画DVDを手にした人は、できればIIだけは一緒に観ていただきたい。
香港映画の革命的な作品
★★★★☆
これまで香港映画といえばカンフー映画やコメディーの作品が非常に多かったが
この作品を拠点にドラマ性も重視した物も数多く作られるようになったような気がする。演技力もチョウ・ユンファが香港映画主演男優賞を本作で取っただけあって哀愁ただよう男を見事に演じています。香港映画をくわず嫌いしている方もこの作品だけは是非観ていただきたい。必見の価値がある作品です。
香港映画の変遷
★★★★★
インファナル・アフェアの大ヒットで、香港アクション映画の人気に火がついたように思えますが、そうした香港人気の出発点となったのがこの映画。従来の香港アクションと言えば、ブルース・リーやジャッキー・チェンに代表されるカンフー映画でしょう。それはそれなりに面白いのですが、アクションはワンパターン過ぎると飽きてしまいますし、コミカルな要素も繰り返しが多くなると退屈してしまいます。
しかしこの映画の登場で、従来の香港アクションのイメージは一変しました。アクションは銃火器を多用したバイオレンスに徹し、コミカルな要素を一切排した、複雑で濃厚な人間ドラマを描く。こうして文字で書くと重苦しい雰囲気に取られますが、個人的な感想を言わせてもらえれば、従来の香港アクションより遥かに優れていると思います。暗黒街を舞台にした、兄弟の絆、男たちの友情と裏切りといったテーマが、観る者の心を揺さぶることは間違いありません。過去を償おうとする兄貴役のティ・ロンと、兄貴を許せずに苦悩する弟役のレスリー・チャン、その兄弟を支えるチョウ・ユンファ。各々の役者たちの、胸が熱くなるような名演技のおかげで、暗黒街という暗い舞台を描いた話でありながら、この映画は優れた人間ドラマに仕上がっています。
今やハリウッドで活躍するジョン・ウーですが、この映画は彼の原点とも言える作品。これを観れば、「フェイス・オフ」の複雑な人間関係の描写も、ここから始まっていることがよく分かると思います。実に見応えのある映画なので、まだご覧になっていない方は是非一度ご覧ください。
最後になりますが、亡くなられたレスリー・チャンの冥福を心からお祈り致します。