星は全部張芸謀に。
★★★★☆
まずすっかりハリウッド進出でそのセンスをおかしくしてしまった張芸謀のまだ純な頃の芸術的センスが輝いていることに評価を与えたい。民衆役の動きこそ少ないのだが、これはコロスとして処理すればなんら違和感はない。それよりも中国人エキストラの素晴しさ、トゥーランドットを聴いていてそこを中国人が闊歩することがこれほど壮麗で感動するものだとは!それだけにキャストがいただけないことに腹が立つ。年老いたカゾッラに人の善い酔っ払いという風体のラーリン、ロシアのお嬢様といった感じのフリットーリ、となんとも弱い。ことにラーリンのアリアの終結音には誰もが「ええっ!?」と思うはずだ。それに対して張芸謀の舞台は!!あの深みのある清朝独特の赤、鮮烈な青、漢字が溢れ、漢詩で締めくくる美しさ。西欧の演出家がとうとう描けなかった中国の美学を、見事にやってのけた。こうなったらグラバー邸の前で蜷川幸雄演出で蝶々夫人をやってくれ!こんな言葉しか出てこない。
プッチーニ:歌劇「トゥーランドット
★★★★★
問答無用の迫力と、役者陣!世界遺産のこれほどの場所で演じられそれをお茶の間で見れるとは生きてて良かった・・・・。
原作の舞台で実現した夢の公演の記録
★★★★☆
このDVDの公演は、原作の舞台である中国紫禁城を野外劇場に改修しておこなわれた、大規模な試みの記録です。一昔前だったら、紫禁城をこのように使ってしまうなどということは想像もできなかったことに違いありません。正直を言って、演奏そのものは、他のDVDやCDのものに比べて特に素晴らしいというほどのものではありませんが、何と言っても豪華で大規模な舞台に加えて、映像版ならではの特殊効果や雰囲気満点の挿入映像の数々は、おおいに楽しめます。さらにこのディスクには、メイキング映像や、いくつもの言語によるあらすじ解説が収録されていたり、ところどころの場面でオペラのDVDとしてはまだ非常に珍しいマルチアングル機能が使われていたりなど、DVDの機能をフルに生かした意欲的な作りになっている点は、非常に高く評価できると思います。このディスクを楽しむ方々は、もちろんこれらの機能や映像美を充分に堪能していただきたいのですが、それに加えて、原作に即した大舞台を得てますますその美しさの本領を発揮しているプッチーニ晩年のこの作品自体の魅力も充分に味わうことを忘れないでほしいと思います。