モーツァルトの傑作オペラをポネルの遺作で見る
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このオペラ映画はポネルの遺作となった。撮影の数週間後にポネルは演出中に舞台から落ち、その怪我が元で亡くなっている。
特典映像として「ポネルによるリハーサル」(2001年制作、34分)が収録。ポネルが歌手の立ち位置や、動作や視線など演技のかなりこまかいところまで指示して映像を作り上げている様子がわかる。ジーグラーやストラータスが自分の意見を言い、それをポネルが説得する様子も収録。歌手たちも意見を言える雰囲気でディスカッションしながら、最終的にはポネルの主張で仕上げられていったようだ。男たちが帰宅する終盤の激しい動きの場面では役者たちが画面から外れてしまい、何度もリハーサルをやり直している。
改めて本編を見直すと、ガーディナーの『コシ』同様、対称性を強調した場面作り。また、細かいカットやズーミング、カメラワークが音楽に合わせた演出になっている。
モーツァルトの重唱を中心とした音楽は最高。傑作は人生を変える。見た後では人生が少し変わってみえる真の傑作。
現代における規範的な『コシ』の映像作品
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もともとは単なるおもしろおかしい喜劇になるはずだったオペラが、ダポンテの機知にあふれた台本と、晩年のモーツァルトの美しすぎる音楽によって、残酷なほど真実味にあふれる人間ドラマとなってしまったこの作品。近年の上演では、そのようなほろ苦い皮肉を基調とした解釈がごく普通になってきたようですが、そのような解釈のひとつの出発点となっているのが、このポネル演出による映像でしょう。全体としては大変美しいが、ポネルの他の映像作品に比べるとなんだかやけに玩具っぽい感じがする舞台装置の数々や、時にわざとらしく感じられる歌手たちの過剰な演技なども、ポネルによってわざと仕組まれたものに違いありません。そして音楽のほうは、グルベローヴァやストラータスをはじめとする歌手陣の歌唱と、なんといっても例によってウイーンフィルのまさに残酷なまでに美しい音色!とかく賛否両論の巻き起こりがちなアーノンクールのやや癖の強い指揮ぶりも、ここではむしろプラスに働いて、この可笑しくて悲しいドラマをおおいに劇的に盛り立ててくれています。それにしてもモーツァルトという人は、なぜこれほどまでに少ない音符で登場人物たちの心理を完璧なまでに描ききれてしまうのでしょう?私たち凡人にとっては、ただただ驚嘆賛美するしかない永遠の謎といえそうです。