「生きた」ロシア語の教材としてもお勧め
★★★★★
とにかくノルシュテイン氏の観察力と、それを表現する力(そして本人が求める基準の高さ)がもの凄いです。
例えば「話しの話」でオオカミが消えそうな焚き火に息を吹きかける描写、あれは火を焚かない人間には絶対にできない仕事だと思います。
きっと、ノルシュテイン氏はありとあらゆる事象を日常の中でじっくり観察されているのでしょう。そうした観察に基づく、病的と言っていいまでのディテールの表現へのこだわりが、圧倒的な存在感を生んでいるように思います。
どの作品にも一貫した空気感があり、そのどれもが全く違っている。同時にどの作品にもモンタージュ手法、フレスコ画、霧といった新たな要素やアイディアが盛り込まれています。常に何か新しいことに挑戦し、同じ所に留まるのを善しとしない姿勢はまさに表現者の鑑。まさに巨匠の仕事です!
今までずっと霧の中のハリネズミこそが最高だと思っていたのですが、最近見直してみて、「狐と兎」の魅力により惹かれています。もちろん他の作品もそうなのですが、ひとりひとりのキャラクターが活き活きしていて、さらに登場する動物たちの性格が良くも悪くも人間的、さらに言えばロシア人気質そのものなのです。特に熊と狼!!!あまりのロシア人っぷり思わず吹き出してしまいました(笑)「生きた」ロシア語、ロシア文化、ロシア人気質を理解するための教材としてもお勧めします。
意味がわからなくても感じると思いますが、原語ナレーションも素晴らしいのです。
自分はロシア語が理解できるのでいいのですが、吹き替えがないのは残念かもしれません。
良質の吹き替えさえあれば、よりテンポ良く物語の世界に引き込まれることでしょう。字幕は字数制限もあるので、どんな素晴らしい訳でも100%伝えることは不可能です。
吹き替えが無い点を差し引いても、とても☆を減らすことができないほど素晴らしい作品です。
童話に託された自由、追憶、・・・そして悲哀。
★★★★☆
ノルシュテインの短編作品が合計8作品収録されているこのDVDは、
政治的な背景を考慮しなくても、繊細な作品からにじみ出ているアウラを
十分に享受できると思います。
とりわけ、5作品目「霧につつまれたハリネズミ」などでは、
映像の完成度の高さと内容の濃密さのために、
時間を忘れてしまうほどの強い芸術性を湛えています。
また、6作品目「話の話」においても、
主人公であるオオカミの感情表現の魅力が、
そして、表情の繊細さと映像と音楽の完全な融合が、
観ている者に、強い哀愁や追憶、または、悲哀を感じさせて止みません。
政治色の強い1作品目「25日・最初の日」などに比べてみると、
アニメーションが訴求してくる内容に随分とばらつきはあるものの、
全体を包む、異常なまでの「悲哀」は、
タルコフスキーなどの映像作品からも感得される
ロシア作家の共通の感情なのではないでしょうか?
ちなみに、「話の話」で使用されている音源は、
バッハ作曲「平均律」のなかのひとつ、
選曲のうまさ、クラシック音楽を熟知していると唸らせます。
初見でいきなりショスタコーヴィッチの交響曲に乗って、
プロパガンダを強烈に印象付けられてしまうので、
トールケースのジャケットだけを見て購入してしまうと、
「あれれ?」ということになってしまいかねないので
折角のアニメファンを取り逃してしまうことを鑑みて、
一点減点とさせていただきます。
革新的な映像美
★★★★★
ロシアのアニメーション作家の作品集。
冒頭は政府の反体制を前面に押し出した作品で、モノトーンに赤をきかせた切り絵をたたみかけるかのように見せたもので、実写との融合も図ってます。
続く『ケルジェネツの戦い』も、赤を意識的に使い、血の滲む戦闘や砕け散る衝撃に効果をあげています。クライマックスは平和的なのが救いです。
わたしが一番好きな作品は『愛しい青いワニ』で、独特のカラーで色使いがファンタスティックです。醜いワニが美しい雌牛に悲恋するストーリーです。
繊細の極み
★★★★★
ユーリノルシュテインの作品はどれも短い。
代表作「話の話」ですら 20分程度である。しかし見ていると とてもそんな短さとは思えないような 濃密な時間が流れている。
いったい 何の話なのかはよく分からないのだがが どうしようもなく訴えてくる「何か」がそこにはある。
タルコフスキーにしてもパラジャーノフにしてもそうだが ロシアの映像芸術はその繊細さに凄みがある。細かい工芸品が好きな人には 堪えられないと思う。
ノルシュテインの作品集
★★★★★
ロシアのアニメーション作家ユーリ・ノルシュテインの作品集。
彼の作品の大半が収録されている
(ちなみに収録されなかった主な作品は
「おやすみなさいこどもたち」・・・子供向けテレビ用の作品、
「ロシア砂糖のCM」・・・登場する動物が美味しそうに砂糖を食べるのが特徴、
「外套」・・・現在も制作中の作品で、NHKの特番などで放映されたこともある)。
2003年に発売された「世界と日本のアニメーションベスト150」という書籍で、
国内外のアニメ関係者(作家なども含む)が選んだベスト1・2が、
ノルシュテインの 「話の話」(2位)、 「霧につつまれたハリネズミ」(1位)であるように、
世界中の人々を魅了した作家といっても過言ではない。
日本での知名度はあまり高いとはいえないが、
三鷹の森ジブリ美術館でノルシュテイン展が行われた事もある。
切り絵で制作された彼の作品は
まるで絵画が動いているよう。