「フィネガンズ・ウェイク」の翻訳者柳瀬尚紀さんが「辞書はジョイスフル」(ISBN4101480117)の中で「小型の国語辞典で、現在、筆者がいちばん愛用しているのは新潮現代国語辞典だ。小型ながら、序に述べられている『著名な言語作品から実用例を求め」るという編集方針が徹底していて、文学的に、というか、『言語作品』的に、面白く読めるからである。」と書いています。
が、この「学研国語大辞典」は、近・現代の著名な作家の作品からの用例が豊富に取り上げられている「小型」ではなく「大型」の辞典です。「広辞苑」、「大辞林」より収録語数は少なく、半分以下ですが、その分用例に富んでおり、それが他の大辞典と一線を画す特徴となっています。詞華集(アンソロジー)と言うと少々大袈裟に過ぎるかもしれませんが、決してそう言えなくもないと思います。用例には必ず出典が明示されており、個々の作家の個性をそれらの用例から感得できるほどの長さで抜粋されています。そうした作家の個性に接することができるのも楽しい経験です。(用例は小説だけでなく評論・批評、新聞記事等からも採用されています。)
柳瀬さんは、(上記引用に続けて)「辞書は引いても、どうせ忘れる。だから何度でも引くことになるのだが、辞書が面白ければ何度も引くのが億劫ではない。」と書いています。まさにこの「学研国語大辞典」も「面白」い辞書の筆頭に挙げることができるのではないかと、私は思います。
面白いから引く、引いて、単に言葉の意味(定義)を知るだけでなく、豊かな用例を通して言葉の使い方も学べます。得るものの大きな辞書であると、私は思います。
しかしながら、この辞書は1冊もののこのサイズの辞書ではほかのどの辞書も足元にも及ばない長所がある。実際の文芸作品や評論、新聞などからの実例がふんだんに盛り込まれているのだ。
用例の多さを謳う辞書でも、実際は作例がほとんどで、しかも5文字、10文字ていどのきれっぱしのような用例だ。本当に言葉を使うためには文脈が必要だ。この辞書では、1つの用例が30文字、50文字におよぶものがざらだ。
意味を調べるだけなら語数の多い辞書がいいだろう。しかし言葉を使えるようになるには用例が欠かせない。そのための一押しの1冊。