貴族の血をひくものの、出生に複雑な事情をかかえるアマヨク・テミズは、軍学校を卒業し、西の駐屯地へ向かう小隊の隊長として赴任する。そこでアマヨクに下った命令は、王家の宝を盗んだ者たちの捜索だった。アマヨクは、野賊の6頭領のひとり、オーマの仕業であることを直感するも、逆に盗賊たちの策略にはまり、捕えられてしまう。伝説の野賊として名高いオーマとの出会いをきっかけに、アマヨクの波乱に満ちた運命が幕を開ける。
主人公は、正義を貫く英雄でありながら、必要であれば平気で嘘をつき、信念の為であれば人を傷つけることも辞さない。宿敵オーマに「血の通った当たり前の人間だった」と述懐させるように、きわめて人間臭い人物である。そんな主人公の無骨ともいえる生き様を軸に、物語には、権謀うずまく貴族達の争い、父親との相克、道ならぬ恋、ラストシーンでの謎解きなど、活劇としてのおもしろさがふんだんに盛り込まれている。その味わいは、まさに蕩々(とうとう)と水をたたえた大河のように、驚くほど深く、幅広い。(中島正敏)