南北境界線を監視する海兵隊のカン上等兵は、夜7時以降、海岸にいる不審な人物は、北のスパイをみなすという掟に忠実に、海岸で横たわる男を射殺した。しかし、その男はGFとの情事を楽しんでいた民間人。人間違いでも任務に忠実だったと表彰されるカン上等兵だったが、殺された男の恋人は精神を病んでしまい、家族から攻められ、彼自身も常軌を逸していく…。
   チャン・ドンゴンがキム・キドク監督の『悪い男』を見て刺激され、自らギドク監督に出演を希望して、実現したのが本作。ハンサムで甘いマスクの彼が、モヒカンの頭で、精神が不安定になっていく兵士を鬼気迫る芝居で見せる。南北問題を抱えた韓国は、デリケートにならざるをえないテーマでも、監督の個性を大切にして、非常に大胆に問題に切り込んでいっている、その勇気に拍手を送りたい。と同時に、ギドク監督の人間に対する情け容赦ない演出もまた見ごたえあり。人間の弱さ、厭らしさを作品ごとに、これでもかと見せていく監督の映画は、人間の醜くどうしようもない性にスポットをあてる。本作では軍隊のまやかしの正義と、兵士の真実の叫びをスクリーンに刻み、痛い…が、力作だ。（斎藤　香）