原作にない、名シーンの数々
★★★★☆
原作は、デ・アミーチスの小説『クオレ』に出てくる学校での「毎月のお話」の一つ、ごく短い作中説話にすぎない。それを、よくここまでスケールの大きなアニメ作品に仕上げたものだと、改めて感嘆してしまう。
常にマルコの心の支えとなってくれる小猿のアメデオも、原作には登場しない。愉快なペッピーノ一座も(もちろんフィオリーナも)、彼らと向かうバイアブランカへの旅も、ペッピーノが駅でメレッリをぶん殴るエピソードも、当然原作には存在しない。そして私が最も好きな、インディオの少年パブロとの出会い、友情、別れ、汽車の窓からの一瞬の再会シーンも、すべて原作には出て来ないのだ。ケーナのメロディーを聴くと自然に涙があふれてくる、あの感動的な名シーン……。アニメ・オリジナルの部分にこそ、「母をたずねて三千里」の本質が描かれているのではないか。そう思わせる“心のふれあい”の数々。原作を超えたドラマ、本当に素晴らしかった。
ただ、その編集には、かなりの無理が感じられた(オープニングにある、ロバに乗って旅するシーンまでもが本編でカットされていたのは、ちょっと納得がいかない)。前後のつじつまを合わせるための新録のナレーションにも、やや違和感を覚えたし、“このシーンをもう少し観たいのに……”というところで場面が切り換わってしまうのが、非常に残念だった。
舞台も登場人物も次々に変わってゆく、長い長い旅の物語を、わずか90分にまとめること自体がまぁ至難の業なのだ。どうしても“あらすじを追う”程度で終わってしまうのは、しかたのないことだろう。これは「完結版」としてではなく、テレビシリーズ全52話への「入門版」と割り切って観たほうが良いかもしれない。