これはアートなのか、カッコつけなのか？ 批評的にも商業的にも成功を収めた『69 Love Songs』以来、待望久しいマグネティック・フィールズの新作アルバム『i』で、バンドのブレーンであるスティーヴン・メリットは新たな目標を定めている。それは、14の収録曲すべてにiという文字で始まるタイトルを与えること。これまでと比べれば楽な目標設定だけに、メリットの創造的頭脳は本来の方向で働いていて、楽曲自体が充実している。「69 Love Songs」を聴けば分かるとおり、キャッチーな小品はメリットの十八番で、佳曲ぞろいのアルバムとなっている。「I Don't Really Love You Anymore」は、ちょっと悲観的なタイトルとは裏腹に、おっとりしたビートが印象的。「I Thought You Were My Boyfriend」は、80年代シンセ・ポップを見事に消化した仕上がりで、メリットの気だるい歌声との相性も完ぺきだ。

   しかし、前作が（テーマがテーマだけに）掛け値なしの優しさをにじませていたのに対して、この『i』は脱線気味でもったいぶった部分が鼻に付く。才気と呼ぶには、あまりにも才気走りすぎている。メリットは誰が見ても才能豊かなソングライターだ。それを証明するために、毎回ここまで必死になる必要はないはずだ。（Robert Burrow, Amazon.co.uk）