レストランで食事をする客のほとんどは、表面を焼いたフォアグラの上に極めて優美なそば粉のブリニがトッピングされ、ピカントハクルベリーソースがかけられた銀器にのせられたこの上なく素晴らしい料理は、料理の最高芸術家であり繊細かつ実に洗練されたエグゼクティブ・シェフによって創作されたものにちがいないと信じている。しかし真実はもっと残酷だ。多くの場合、上品な3つ星レストランで料理を作っているのは、決まってピアスの穴を開けているか刺青を入れ、意味不明な雑言や外国語以外にはひとつのセンテンスも話すことができないような「風変わりな変質者や麻薬中毒者、難民、そして酔っ払いやコソ泥、ふしだら女や精神異常者を寄せ集めた凶悪」チームである可能性の方が高いのだ、とアンソニー・ボーデインは本書の中で書いている。20年以上料理の最前線で這いつくばってきた著者が、明らかにサドマゾヒズム的快感をこめながら、迫力に満ちた表現でこの世界を描いている。CIAで訓練を受け、現在は有名なレ・アールのエグゼクティブ・シェフを務めているボーデインは、雑誌「ニューヨーカー」に最初の(そして非常に評判の悪い)エッセイを掲載したあと料理ミステリーを2作出版し、今回、好色で手癖の悪いコックやレストランの真実の姿を率直に告白するという形で本作品を発表した。彼はみだらな言葉を並べながら実に雄弁に語り、弁解など一切なく独断的に、かつ非常に巧みにストーリーを展開させている―― まさにキッチンのジャック・ケルアックだ。この手の無謀な行為がお好みでない人は、冒頭にある著者からの警告に注意すべきである。「ここにはいくつかのホラーストーリーが描かれている。酒、麻薬、乾物置き場での性交、この業界で蔓延している食欲を減退させるような行為の数々。月曜に魚料理を注文しない方がいいのはなぜか、なぜウェルダンを選ぶ人は樽底の削りくずをもらうのか、ブランチにシーフード・フリタータを選ぶのが賢い選択といえないのはなぜか…などについて語っている。しかし、私は自分の目で見てきたこの世界について誤解を与えることだけはしないつもりだ」
キッチンに立ちたくなる本
★★★★★
日常、台所に立つのはお湯を沸かす時くらいなものだったのですが、
この本を読んだら、自分でいろいろ作ってみたくなりました。
とりあえず、厚手の鍋と、自分の手にぴったりあった包丁を手に入れたくなります。
普段料理をしない人にも絶対にお薦めできる本です。
食べる前に読む!
★★★★★
包丁人故手指は勿論、脛に傷持つ著者の、シンプルな打ち明け話を素材に、「イカレポンチ」と、薬味を効かせた、訳者の手腕に酔い痴れた。
外食時に正露丸を手放せない方にも、不潔なトイレの飲食店に怒りを覚える方にも、馴染みの店の味が落ちてお嘆きの方にも、そして自己嫌悪、自己憐憫、自信喪失に人間不信と、問題だらけの人生に疲れた方にもお奨めします。是非ご一読を。
ドキュメンタリー番組のようなシェフの本
★★★★★
ニューヨークの現役シェフによる物凄い迫力のノンフィクション。ヘロイン中毒になりどん底まで落ちた彼が赤裸々に語るコックの世界には度肝を抜かれた。様々な店での職歴を重ねた彼が身に付けたコックとしての腕前だけでなく、素材の手配、従業員との関係作り、スペイン語と英語のスラングが飛び交う仲間内の会話、全ての道具の計算し尽くされた配置、神のような手さばきなどが、手に取るようにダイナミックに伝わってくる。料理の素人にも面白い話題も盛りだくさんだ。なぜ月曜日のスペシャルメニューが最低か、ムール貝の真実など。修羅場を駆け抜けてきたアンソニー・ボーデイン彼こそが語っているかのような、勢いのある翻訳はとても楽しませてくれた。
ROCK 'N' ROLL CHEF
★★★★★
フランス旅行で味覚に開眼した幼少時の追憶に始まり、70年代後半から80年代のニューイングランド,ケープコットの景勝地プロヴィンスタウンにおける狂騒に満ちた体験、米国料理学院への入学、金とドラッグを求めてニューヨークをさすらい雇われシェフとして働き、そして現在はドラッグから足を洗い、ストイックな料理人生活を送る傍ら本を執筆し、テレビにも出演する(こないだもCBSドキュメントのトーマス・ケラー特集でコメントしてました)人気レストラン・レアールのシェフになるまでの、料理人稼業の赤裸々な裏話をハイパーアクティブな文体で描いています。
(ウィリアム・ギブスン等の影響を感じる文体です)
外食に興味のある人、調理師やレストラン業界人などにとっては情報満載(日進月歩で変わる業界ですが基本的な部分は変わらないと思うので)で楽しめる内容ではないでしょうか。
readers confidential
★★★☆☆
まずは一つの文章の長いこと!この程度の文章力なのか、わざとしているのか?垣間見えるのは食を通してカスタマーと連帯、なんて仰々しいものではなく、その日ぐらしの足元の危うさ。かといって食の本場、ヨーロッパへの憧憬もここかしこにあり、なかなか複雑な心境を披露してくれます。読んだ限りでは、料理人のメンタリティはフランスのほうが我々日本人にはなじみやすく、confidentialとなるのも、アメリカならでは。それでもマネージメントのこととか、星三つと星なしの違い、人の扱い方とか、神妙に語っているところも。日本の記述もあり、浅草がアカスキとか何とか間違っているけれども、文化の違いに驚く場面も。結局、食を共有する、顧客と料理人との関係はアメリカでは、希薄ということなのでしょうか?