主人公のエディパ・マースは、ある日突然かつての恋人の遺言執行人に指定されてしまう。大富豪だった彼の財産を特定しようとするエディパの行く先全て、会う人全てに、トライステロという名の地下郵便組織の影が見え隠れする。歴史から駆逐されたこの謎の組織は、消音されたラッパを旗印にし、精緻に偽造された切手を使って、自殺願望を抱く人々や同性愛者など、アメリカ全土の影の組織の書簡を密かに取り持っているらしい。アメリカの現実から薄皮一枚を剥いでみると、全く違ったアメリカの姿があった。果たして死んだ彼は、このアメリカの現実にエディパの眼を開かせようとしたのか?それとも全ては壮大かつ巧妙に仕組まれた冗談なのだろうか・・・?
サスペンスばりのストーリーを軸に、卓抜した比喩、豊穣なイメージと暗喩の数々が畳み掛けるような文体の中に詰め込まれています。ピンチョンお得意の歴史を題材にした挿話も魅力的です。60年代の作品でありながら、全く古さを感じさせません。中編で、ピンチョンの作品としては最も読みやすい作品です。何度読んでもそのスケールと緻密さに感嘆させられます。