It Could Happen to You [12 inch Analog]
価格: ¥1,077
チェット・ベイカーは1988年に宿泊中だったアムステルダムのホテルで急死した。窓からの転落死。事故なのか殺人なのか自殺なのか、定かではない。ちなみにその日は13日の金曜日だった。チェットの音楽人生は、栄光と挫折が織りなす波瀾万丈の人生ドラマだった。いわゆる典型的な破滅型ジャズマン。若い時のチェットはジャズ界のジェームズ・ディーンと言われたほどで、貴公子然としていた。トランペットの中低域を駆使した情感豊かなプレイには青春の輝きがあった。それに対して晩年の演奏は深い寂寥感に包まれていて、聴くのがつらくなる時もある。中性的と評される独特のヴォーカルも魅力。
本作は58年録音だから、はつらつとしていた時代の作品で、トランペットとヴォーカル両方とも楽しめる。チェットのトランペット演奏はヴォーカルのフレーズをそのまま楽器に置き換えたものなので、両者は不可分の関係にある。このアンニュイな歌声、シャーデーやマイケル・フランクスあたりが好きな人にも、ぜひおすすめだ。きっと中毒になってしまうはず。(市川正二)