ブルックナー:交響曲第8番
価格: ¥7,764
2002年1月に90歳になる20世紀ドイツ音楽界最後の巨匠指揮者ギュンター・ヴァントの演奏は、新規リリースされるものすべてが私たちにとって貴重な機会である。「ヴァントは実演を聴いたものでないと真のすごさはわからない」とは、生体験を多くしているファンたちの共通意見だが、それでも録音に刻み込まれている音楽の、なんと懐深く偉大なことだろう。このディスクに収められている演奏も、きわめて彫りの深い、しかも剛直きわまりないブルックナーに畏敬の念を覚えずにはいられない。いい加減な気持ちではなく、スピーカーの正面に正座し、襟を正して取り組むべき音楽である。
半分以上は若返りを果たし、メンバーも国際的な現在のベルリン・フィルだが、それこそフルトヴェングラー時代を思わせる昔の重厚な響きを随所で取り戻している。音楽の美しさに溺れすぎず、どこまでも厳粛だからこそ感動を呼ぶアダージョをはじめ、各楽章の煮えたぎるクライマックスでの強固で意志的な響きなど、あらゆるディテールを何度も味わいつくしたい演奏だ。(林田直樹)