本書の特長は、マーケティング理論の基本を押さえながら、過去のさまざまなケースをひも解き、実践のポイントをわかりやすく示した点にある。実務家の立場から、消費者理解のための調査やナレッジマイニング、ブランド開発、新製品開発、マーケティングの4Pの実践方法などが、具体的なケースとともに詳細に論じられている。
ケースの豊富さは本書の一番の魅力である。歯磨き粉業界における過度のセグメント化の隙間を突いて成功したコルゲートの例や、かつて向かうところ敵なしだったリーバイスが自社製品を売る場所を間違ったばかりに70%のシェアを20%にまで落としてしまった例、著者自身の成功例・失敗例など、興味深い例は枚挙に暇がない。
本書のように、理論と実践のバランスが取れた本にはそうお目にかかれるものではない。また、コカ・コーラのマーケティング本部に所属する著者が翻訳していることもあり、訳文もこなれている。P&G、ウォルト・ディズニー、コカ・コーラのマーケティングノウハウを知りたい人や、豊富なケースを学びたい人に、ぜひおすすめしたい1冊である。(土井英司)