とにかくカルロス・クライバーが凄すぎる。この、ごく限られた曲しか振らず、ここ10年はろくに仕事もしていない変わり者指揮者が、なぜに今なお熱狂的人気を保ち続けているのか、その秘密を知るにはこの1枚で充分である。いや、どこか5分だけ見れば充分かも知れない。とにかく全ての音がいきいきと粒だち、圧倒的なエネルギーで聞き手を興奮させる。歌唱には一部弱いところもあるが、あまりにオーケストラが強烈なので、ほとん気にならないのだ。元々全編が聴かせどころよのような名作だけに、その相乗効果は大変なものである。
歌は万全といえない歌手たちも、ビジュアルと演技は完璧だ。特にヴェヒターとホプファーウィーザーのセクハラコンビが地でいっているようで、若いコバーンを苛めたあげくにしてやられる構図は楽しいかぎりだ。演出も贅を尽くした舞台装置を得て好調、圧倒的な音の饗宴にピッタリ寄り添って、享楽をきわめたような喜劇が展開される。そして舞台の下はドイツを代表する豪華な歌劇場。カメラは酔いしれる満員の観客たちの熱気をも余すことなく治めている。
人類の宝ともいうべきDVDだ。