2部に分かれた本書の長いほうの章で、第四次中東戦争の詳細を扱っている。その内容は多くの意外な新事実を含むと同時に、今なおきわめて重要な意味をもっている。ニクソン大統領はもちろん、イスラエルの首相ゴルダ・メイヤ、駐米イスラエル大使シムハ・デニーズ、エジプトの外相モハメド・エルザヤト、駐米ソビエト大使アナトリー・ドブリニン、国連事務総長クルト・ワルトハイム、その他多数と交わされたキッシンジャーの会話には、中東における現在の問題の主要素の多くが見受けられる。
ベトナム戦争の最後に関するセクションは、悲惨なドラマだ。敗北した戦争の最後の瞬間にも、大統領と分裂した国とを助けようとするキッシンジャーの奮闘が描かれる。まさに最後の最後、陥落寸前のサイゴンにまだ残っていた海兵隊の部隊を確実に退避させようとするキッシンジャーの姿や、サイゴンのアメリカ大使館を離れようとしないマーチン大使とのやりとりなど、驚くべき話ばかりだ。
本書は、本物の危機がもたらすあわただしさと緊張状態において、外交の中枢で何が起こっていたのかをつづった最良の記録といえよう。