「殺されたのは3歳の男の子と父親、そしてベビーシッターだ」。カイルは、その場を離れる前に、もう一度繰り返した。ドアからガラス張りのベランダへ出ようとした彼は、つと振り返り、私にこう言った。「この事件、お前にうってつけだ。奴ら、家族殺しなんだよ、アレックス」
カイルが出ていったあと、すぐさまクリスティーンの姿を探した。私の心は沈んだ。彼女は、出ていくとも言わずに、息子のアレックスを連れていなくなっていた。たった一言のあいさつもなしに。
こうして家族への負い目を感じる必要もなくなったクロスは、事件の「マスターマインド」を追うこととなる。最近の一連の銀行強盗を影で操る残酷無比な知能犯だ。銀行員やその家族を人質に取り、彼らがわずかでも指示に反すれば虐殺するのだった。クロスの長年のパートナー(愛すべき巨漢、ジョン・サンプソン)は、この事件の根底に計りしれない残虐性を感じとり、魅力的で思いやりもあるFBIきっての頭脳派エージェント、ベッツィー・キャバリエに今回のクロスの相棒の座を譲るのだった。
しかしクロスとキャバリエの捜査は難航。それにつれて、「マスターマインド」の攻撃もさらに大胆で残酷になっていく。まるで、こちらの動きを見透かしているようだ。きわめて短い段落と語り手の急激な交代(クロスの視点から「マスターマインド」の視点へ)という効果もあり、ストーリーは息の止まるようなスピードで、予想もできない結末へと急降下していく。
だが、そんなことに気づく間もなく読み終えてしまうのが普通かもしれない。くつろいだ気分で、あるいは固唾を呑んで、この「ショー」を存分に楽しもう。そして、引き続き次回作にも注目しようではないか。