老人性問題への招待
★★★★☆
「性」というとどうしてもティーンエージャーを取り巻く問題がまずあって、中年期のセックスレス現象などがその次にくるという印象が強く、あまり老年期の性問題はメディアでも扱われないが、本書を読むと所謂「心」と「体」を取り巻く問題は、老若男女を問わず総合的に論じられなくてはならないことがわかる。本書は、異性愛が老人のQOL(quality of life)を高める上で必要不可欠であることを説き、その根拠を主に性科学的なデータに求めている。しかし、「性交」に至らない、精神的なコミュニケーションも「性的交渉」とみなすのかどうか、そのあたりの定義づけが若干曖昧で、それゆえ第三章の性科学についての記述が若干浮いている。本書は老人保養施設内での話しに限られているが、その枠組みで異性愛は言うに及ばず、ポルノグラフィーまでもが肯定的に論じられている。著者が上げる幾つかの事例はなかなか興味深く、特に最後の木島とツヤコの一件はなかなかの人間ドラマで泣かせる。本書はこの問題への手ごろな入り口として勧められる。