Christ the Lord: Out of Egypt: A Novel
価格: ¥313
ライスがいつものテーマを離れて、ナザレの家に戻るために家族とともにエジプトを出発する7才のキリストを描いた、風変わりな物語。1世紀のユダヤ人グループの差異(パリサイ人、エッセン人、サドカイ人のすべてが登場する)の記述でも、通過の祭りのためのエルサレムへの巡礼を想像した部分でも、ローマの支配下でいらだつユダヤ人がしばしば起こす暴力による反逆の描写でも、ライスが歴史研究を入念に行なったことは一冊を通じて明らかだ。この本はキリストのユダヤ人らしさを深く巧みにとらえているが、中でもトーラーの学習や伝統的なヘブライ語聖書の口承の訓練を振り返る場面は出色だ。しかしながら小説としては、前半が緩慢である。物語の語り手がキリストであることを考えれば、子供の言葉遣いを使ったのは単純すぎるきらいがあるが、辛抱して読み進めれば、このシンプルなに文章にこそ豊かさがあることに気づくだろう。両親が決して語ることのなかった、自身の奇跡的な出生について知り、自分がなぜ病人を癒し、死者を蘇らせることができるかをキリストが徐々に理解していく下りは、この本の感動の中心であり、大いに盛り上がる。ライスは感動的なあとがきを書いているが、その中で近年の自分のカソリック教への回帰について語り、今日の聖書研究のあり方についてユーモアをまじえいさましく自身の見解を述べている。