モハメド・アリー―ブラック・アメリカン・ファイター
価格: ¥1,890
通常「アリ」と表記される彼の名前が「アリー」になっているのは、訳者が「『アリー』の方が、この名前の本来もっている格調高い感じが伝わるように思われる」(あとがき)と判断したため。もちろん、あのボクシング世界ヘビー級チャンピオンの座に3度ついたヒーローの伝記である。アメリカでは「偉業を達成したアメリカ黒人」というシリーズ中の1冊として出版された本であり、ボクシングそのものより、彼が黒人としてどう生きてきたかに重点が置かれている。1967年4月28日、アリーが徴兵忌避を明らかにする場面から書き起こされているのはそのためだ。著者はそこからアリー誕生の時点に戻って彼の歩みを追う。
アリーはローマ五輪で金メダルに輝くが、凱旋した故郷で黒人ゆえの差別待遇を受け、アメリカに失望してメダルを川に投げ捨てる。プロに転向して世界チャンピオンになるが、黒人民族主義を掲げる「イスラムの民」に入信し、ベトナム戦争に反対して徴兵を忌避すると、すさまじい非難にさらされた上、ボクサーのライセンスを剥奪される。そこから復活の闘いが始まり、その目標は達成するが、リングで受け続けた頭部への打撃がもとでパーキンソン症候群に冒されて現役を退く。
ラングストン・ヒューズやマルコムXの伝記も手掛けた著者は、この波瀾万丈の半生を簡潔にまとめている。1996年にアトランタ五輪の最終聖火走者として世界の喝采を浴びた姿、またその後の活動については、訳者の解説の中で補足されている。(松本泰樹)