タイトルは『ダヤンとジタン』だが、物語中盤まではダヤンと門番ロークが主役である。お気に入りの帽子を取られたロークが「何よりったって、たかが帽子です。そりゃ友達の方が大事ですよ」といえば、ダヤンは「きみに体温がないなんてとんでもない。だってすごくあったかいよ」とロークを思いやる。この物語は、困難な旅の中で勇気を失わずにいられるのは、温かい友情があるからだということを示しているのだ。
また、街のみんなで協力して魔法でアルスの危機を救ったり悪者をやっつけるのはありがちな設定だが、宙に浮くことのできる不思議な湖や、マージョリーノエルというサーカス団の不思議な仲間たちなどキャラクターが細かく描写されていて飽きることがない。
友情と勇気を題材にしたこの物語は、繊細なエッチングの挿絵の魅力と共に、小学生から大人まで就寝前のひと時を過ごす本としておすすめ。(青山浩子)