ネトレプコの狂乱の場が圧巻!
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オペラ作曲家の中で旋律美では右に出る者のないベッリーニの作品のうちでも、最も美しいメロディに溢れているのがこの作品。上演される機会が少ないのは、至難の旋律を歌える歌手が少ないからだが、アンナ・ネトレプコのエルヴィーラは圧巻だ。
第一幕終盤に発狂してからの演技と歌唱はまるで何かにとり憑かれたよう。特に第二幕「狂乱の場」で、舞台に仰向けに寝て髪をオーケストラ・ピットに垂らしながら歌うカバレッタは必見。彼女の歌唱は、マリア・カラスのエルヴィーラ(1953年・スカラ座公演)のCDを聴いた後に聴いても引けをとらない。
他の歌手の出来も決して悪いわけではないが、ネトレプコの陰に霞んでしまっている印象は否めない。特に第一幕の、この世で最も美しいテノールのアリア「A te, o cara」は、できることなら往年のアルフレード・クラウスのような、甘美で格調の高い声を持つベルカント歌いに歌って欲しかった。
それから、このDVDの特典がまた豪華!なんと幕間にあのルネ・フレミングがネトレプコにインタビューをしている。ネトレプコの明るく素直で気さくな人柄が伝わってきて好印象。また、ビバリー・シルズによる解説も収録。シルズは、前述のテノールのアリアを「全てのテノール歌手にとって悪夢中の悪夢。犬にしか出せないような高音。」と評するなど、亡くなる半年前とは思えない元気な様子でコメントしている。
決して買って損はない内容だ。