このライヴＤＶＤは、正統で華麗な舞台、きらびやかに着飾った貴族達、エキゾティックなバレリーナ達、そしてマゼール指揮のスカラ座管弦楽団等々の充実した布陣に、レヴェルの高い歌手陣が揃えられており、あっと言う間に一気に全曲を見終わってしまいました。
　何と言ってもゲオルギューのヴィオレッタが素晴らしいです。　伸びやかな良く通る美声で（テバルディには及びませんが）、高音・装飾音・音程全てで高水準な歌唱を聴かせてくれ、演技力も申し分ありません。　その美貌と結核病みにふさわしいスリムな姿故か、何度見ても思わず涙が出てしまいます。
　アルフレード役のラモン・ヴァルガスは、まず、猪首の太めの体躯と若々しさの乏しいオッサン顔に違和感を覚えました。　レッジェーロでもなくリリコとも言えない中途半端な声質の為か、或いは演技力がまだ足らないのか、１幕第２場開始早々のアリアの幸せ一杯の高揚感や、２幕のヴィオレッタを罵倒するところでの怒りの激しさなどが、ややもの足りません。　イタオペなんですよ、と言いたくなります。
　しかしながら、ジェルモン役のロベルト・フロンターリや、フローラ、貴族達、アンニーナ、医師などで、しっかりと脇が固められていて、かなりレヴェルの高い公演だったと思います。
　最後にこのＤＶＤの日本語字幕についてですが、かなり字幕が省略されている感じで、繰り返しの部分はまあ善しとしても、セリフの分からないところが何か所か有ったのは残念です。

恥ずかしながら私は、ミラノ・スカラ座のオーケストラを、これまで情熱的な表現や迫力には富んでいても、深い感情表現に関してはドイツ・オーストリア・イギリス系の有名歌劇場オーケストラに比べると少し落ちる、と評価していました。しかし、この映像を鑑賞して、そのような考えをすっかり改めました。冒頭の前奏曲から、何という美しく深く悲しい弦楽合奏の音色でしょう。また、たとえば第二幕の有名なアリア「プロヴァンスの海と陸」で聴かれる木管楽器の優しく暖かい伴奏や、第二幕フィナーレにおける激しい強弱の表現などが、何と素晴らしく効果的なことでしょう。無論、主役のゲオルギューをはじめとする歌手陣の声と演技も素晴らしいし、豪華な舞台装置も見ごたえがあります。しかしなによりこの公演記録では、ミラノ・スカラ座オーケストラの好演と、マゼールの年齢を感じさせない情熱的な指揮ぶりを、高く評価したいと私は思います。『椿姫』のディスクに、また安心して皆さんにお奨めできる一枚が増えました。