素晴らしい逸品
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私の持っている魔笛DVD数枚(他にサヴァリッシュ指揮のものや、最近のコリン・デイヴィス指揮のものなど)の中では、映像はやや古いのは仕方ないとしても、演出・演奏・歌唱の水準ではこの82年ザルツブルク版が圧倒的に最高です。ロケーション(フェルゼンライトシューレ)のせいか、音がバランスよく伸びやかに反響して聴こるのも良い。そのロケーションの中で、シュライヤー、コトルバス、グルベロヴァなどの超一流の歌唱に圧倒されます。また演出の練り具合は、他で見たことのない水準にあり、これが本物の魔笛かと目からうろこが落ちる感じ。余裕のないオペラにありがちな歌と演技が分離したような不自然なかんじが微塵も感じられないです。夜の女王・グルベロヴァのハイトーンもよく響いていますが、その中にもふくよかで魔法のような美しさがあって、他の夜の女王役とは一線を画す水準のはまり具合を見せている。3人の侍女役の歌唱、ベッシュ(パパゲーノ)のなりきりぶり等も凄い。フェルゼンライトシューレの岩肌をバックにした素晴らしい快演です。とにかくお薦めです。
極上のひとときが味わえる名盤
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CDではかなり以前から発売されていたレヴァイン=ウィーンフィルの『魔笛』ですが。今回シュライヤー/コトルバス/グルベローヴァら豪華キャストによる嬉しいDVDの発売となりました。ライブをあまり編集しないでそのまま映像化したもののようで、コトルバスが唄い急いで伴奏とずれてしまうところが何箇所かあったり、パパゲーノ役のベッシュが演技に夢中になりすぎて音をとばしてしまったりすることがあったりするのが珠に瑕ですが、それらの点を差し引いても、やはりそれぞれの名歌手たちの美声の競演、ザルツブルクの広い舞台を活用した豪華な演出、そして何より全盛期のウィーンフィルの美しい音色は素晴らしいの一言に尽きるもので、このオペラを始めて観る方にも、またこのオペラの大ファンの方にも、充分に満足のゆく内容だと思います。
台詞を省略せず、遊び感覚に溢れる舞台
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『後宮からの誘拐』や『魔笛』は「歌芝居Singspiel」なので、音楽の付かない地の台詞が多い。しかし『魔笛』の多くの上演では、そうした台詞はかなり省略されるので、上演時間はまちまちである。代表的名演のDVDを比べてみよう。(1)ザバリッシュ指揮、バイエルン国立歌劇場、1983、160分、(2)ゲンネヴァイン指揮、ルードヴィッヒスブルク音楽祭、1992、147分、(3)トロタン指揮、サン・セレ音楽祭、2000、149分、(4)デイヴィス指揮、コヴェント・ガーデン王立歌劇場、2003、164分、(5)ケネス・ブラナー監督の映画版、2007、139分などである。それに対して、本作の(6)レヴァイン指揮、ポネル演出、ザルツブルク音楽祭、1982年は、何と上演時間は188分。(2)(3)(5)に比べて40〜50分も長い。その理由は、地の台詞を省略せずに、演劇的な部分を丁寧に表現するからである。『魔笛』は言葉遊びも多く、ユーモアに溢れた演劇的表現の細部はとても大切だ。たとえば本作では、パパゲーノを巧みにからかう弁者の台詞、老婆に扮したパパゲーナがパパゲーノに結婚を迫るシーンなど、省略がないのでとても楽しい。夜の女王だって、絶叫アリアだけでなく、第2幕第8場では、長々と自分の秘密を台詞で語るのだ。やはり『魔笛』は台詞省略なしに観たい。本作では、1973年グラインドボーン音楽祭『フィガロ』で素晴らしいスザンナを歌ったコトルバシュがパミーナを歌っている。今は亡きルチア・ポップもスザンナとパミーナの名演があるが、往年の名歌手をDVDで観れるのは本当に嬉しい。本作は、光線を横から投げて陰影をつけるポネル演出の視覚的美しさも格別。