春を待ちわびる詩人の心に惹かれる
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漢詩歳時記を意図した本シリーズも、本作で二十四節季の冬至、小寒、大寒、立春、雨水、啓蟄を扱って完結します。真冬の詩では、読書の楽しみを詠った詩に心を奪われます。中でも、江戸時代の詩人・菅茶山の「冬夜読書」は私の大好きな詩。「一穂の青燈万古の心」の句は、読書を通じて古人と心をかよわす読書の醍醐味を詠って圧巻。女流詩人・江馬細香の「読書」も一つのともし火を父子で分かち合い、学問する姿を描いて感動的。そういった冬に家にこもって読書に励む詩もさることながら、近づく春を喜ぶ詩は心が浮き立つ心地がしてどちらかと言えば私は後者により惹かれます。中国の人は梅を愛でますが、梅を詠った極めつけの作品は林逋の「山園小梅」。私はこの詩を知ってから、通勤途中にある梅の花が咲いているときは、「疎影横斜水清浅、暗香不動月黄昏」の対句をいつもつぶやいています。まさに千古の絶唱だと思います。韋応物の「東郊」等も好きですが、日本人の詩も多く選ばれてその何れもが絶品。例えば、頼山陽の「花を売る声」等です。その中では、夏目漱石の「春日偶成・其の六」に注目してください。漱石の作品群の中で漢詩が大きな位置を占めていることに気づかされるでしょう。さて、本シリーズに選ばれた春夏秋冬400首からなる「四時の歌」(本作に陶潜の作品として紹介されています)を鑑賞した貴方は至福の時を過ごすことができたでしょう。この400首を出発点にしてより漢詩を深く楽しむのもよし、季節の節目節目で本シリーズを読み返すのもよし、秀逸な企画ものとして、私は本シリーズを大いに推薦します。