本書を読むと、一口に価格設定といっても実にさまざまな方法があることがわかる。「経験だけにもとづいたこれまでのプライシングは、現実に対処するには適当とはいえない」と本書は言う。正論だ。データやケースが多く、絵やグラフも豊富で、論述は説得的だ。ただし、網羅的説明を目指したせいか、訳書で500ページに迫るボリュームの本で、ビジネス書としては明らかに厚すぎる。
本書から得られる最大の収穫は、プライシングには戦略があり得るという発見だ。こう言うと不思議に思うかもしれない。だが、日本企業のプライシングは従来ワンパターンだった。ワンパターンというのは、市場シェアを重視し攻撃的な価格戦略を選好するということで、常に低価格を志向した攻め方だ。その背後には経験曲線の概念があった。
このアプローチは、ブランド価値の構築を軽視あるいは無視した取り組み方だ。言ってみれば、プライシングには複数の代替案などないかのように振る舞ってきたのだ。
もちろんこの点には顕著な例外もあり、トヨタ・レクサスの北米市場での価格戦略はその例だ。ソニーも例外に属する。
最近になって(2002年現在)、ユニクロ、マクドナルド、吉野家など、日本の尊敬すべき会社が価格戦略に本格的に取り組み始めた。しかし、低価格訴求とブランド価値創造の両立は容易ではない。コスト低減は必須だが、それと同時に製品の知覚価値を高める方策を講じなければならない。そのための具体的ヒントが本書にはある。(榊原清則)