煎茶道の入門本として一押し
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この本の監修をされた小川後楽(6代)氏は今までに多くの煎茶道入門本や煎茶道の歴史本を上梓されていますが、これはそれらの中で2009年現在一番新しく上梓された物だと思います。私も多くの煎茶入門本を読んできましたが、小川氏の書かれる本は単なる作法紹介に留まらず、日本に於ける煎茶道の歴史や道具の紹介が非常に丁寧です。
特にこの本では、ジェフ・バーグランド氏を招いて「ど素人が煎茶の茶会に招かれたら」という余り今まで諸本では紹介されていなかったシチュエーションで写真と共に煎茶道の茶会の流れを紹介されていますが、茶道の茶会に関してはかなりハウツー本がある物の煎茶道のそれは珍しいため、非常に親切だと感じました。また実際に煎茶道に造詣の深い杉本秀太郎(京都大学教授)氏の煎茶道エッセイは、「淡交ムック」シリーズらしいコーナーです。
煎茶の手前は小川流に制約されてしまうのですが、仕方ないところでしょう。家庭でも実践的に使える「蓋盆煎茶手前」「略盆煎茶手前/玉露手前」「番茶手前」「冷淹(れいえん)手前」の4種を紹介されています。但し手前紹介は白黒ページになります。
道具紹介はすべてカラーページ、しかも本自体のサイズがA4サイズで写真も大きいため、説明も今まで小川氏が上梓された本では一番理解しやすいです。
最後の方では意外に入門書でも書かれていない「煎茶の茶室」「煎茶のしつらい」(掛け軸などの床まわりの飾り物)、「煎茶の菓子」「茶懐石」(煎茶茶会の料理)をカラー写真を交えて解説。特に煎茶用の名茶室というのは余り紹介されないだけに興味深いです。
お手前が小川流に偏るというやむを得ない点を除けば、一般向けの煎茶入門本として一番まとまっていて読みやすく、内容も広くバランスが取れ、すぐにでも家庭で応用できる気にさせるような内容であり、一方で知られざる煎茶道の蘊蓄も学べて、至れり尽くせりのお薦めできる本です。