老いを受け入れる
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急速かつ確実に高齢化社会に向かっているせいか、老後の過ごし方やアンチエイジング、はては老人の性やお金の増やし方まで、老人・老後をテーマとする本は数多く出版されており玉石混淆の態をなす。そんな中で、本書は小著で平易な語り口(元はNHKラジオ講座テキスト)ながら、じっくりと読ませ考えさせられる本である。
本書は70代半ばの著者が、古今東西の文芸作品や映画、演劇を素材に「老いるとはどういうことか」について考察したもので、素材として選ばれた14作品はそれぞれに興味深い(中でもキケロ「老人について」、戯曲「ドライビング・ミス・デイジー」、耕治人の晩年の作品は、原著に当たりたくなる)。医学・医療の進歩で長く生かされ、美しく老いることが難しい時代に、これらの作品から、夫婦で年齢を重ねることや老いてこそ見えてくるもの、老人間の友情、近づく死の不安等について、著者自身の人生経験や小説家としての洞察力を踏まえて、静かに丁寧に説いている。
著者によれば、「老いは突然に訪れるものではなく、そこまで生きてきた結果として徐々に姿を現す(過去からの連続)」「老いることは生き続けること(死ぬまでの現在進行形)」であり、老いの一般論は成り立ち難いとある。前期高齢者突入目前の評者にとって、自分の老いを肯定し受け入れ、気負わず自然体で老いて行こうと心安らぐ思いを得た。