少年漫画誌で連載中の作品というだけあって、主人公の温は内に秘めた力の扱い方も分からない善良なヘタレ少年だ。物語は、二つのよく似た平行世界が癒着し、消滅しない為に神として転生を繰り返しながら一人で二つの世界を守るトランスという男の登場から始まる。このトランスが次の転生を成功させる為の子作りの相手に選ばれたのが温で、最初はコミカルな求愛から始まった（トランスが女体に変身して）のだが、物語は加速度的にシリアスファンタジーへ。敵対する勢力ドクターと背後に潜む形無き神の存在との戦いが始まり、バトル、謎、悲恋と少年漫画の醍醐味を満喫し尽す勢いで楽しめる。
しかしこのバロックの作者は、少女漫画誌で大活躍中の女性作家なだけあって、女性読者の萌えポイントをちゃんと心得ている。トランスという完全無欠のヒーローがそれだ。美しく、賢く、強く、大変なフェミニストであり、女性の口説き文句は豊富なのに、大事な部分は語らず自分が憎まれ役になってでも責任を負うタイプなのだ。一人で永遠を生きる孤独を知っているのに、胸に秘めたたった一人の女性以外にも優しく出来る、そんな度量の広い男はもう少女漫画の世界でしか存在し得ないと思う。
癒し系お笑い要員としての存在であるクマンゴや、天然ボケのミーア等、多彩な個性派キャラが脇を固めて、骨太な少年漫画のストーリーを盛り上げている。女性読者も男性読者もそれぞれに楽しみ所満載な美味しい漫画であると思う。