如何なる難題にも最良の決断を下す修道女フィデルマ歴史ミステリー短編集第2弾。
★★★★☆
紀元七世紀アイルランド五王国の王女にして上位の法廷弁護士を務める美貌の修道女フィデルマの鋭い名推理と公正で人間味溢れる裁きを描く傑作5編を収めた歴史ミステリー短編集第2弾です。既に長編3冊と昨年には秀作短編5編が紹介されて日本でもすっかりお馴染みになった修道女フィデルマの資質で素晴らしいなと感じるのは、今流行りの「整いました!」に匹敵すると思える真に迅速に推理判断する能力と信念を持って裁きを下す確かな決断力です。本書には単純な正義だけでは判断出来ない多くの人々に多大な影響を及ぼす問題を孕む作品が二編収められており、彼女が迷いながらも答を出す人間的な思いやり溢れる裁きを読んで、厳しいだけでない女性らしい優しさに触れられ心が洗われます。
『毒殺への誘い』悪名高い族長が招いた七人が集う宴席の場で毒殺事件が起き、フィデルマは信じられない人間の邪悪な企みを暴く。『まどろみの中の殺人』フィデルマは殺人の証拠が歴然とした修道士の弁護に乗り出し狡猾で冷酷な真犯人を突き止める。『名馬の死』競馬見物に訪れたフィデルマは名馬と騎手の2つの死に遭遇し複雑に絡み合った謎を解き明かす。『奇蹟ゆえの死』孤島で不可解な死を遂げた修道女の調査に派遣されたフィデルマは排他的な島民の隠された秘密に迫り全てを勘案し最良の決断を下す。『晩祷の毒人参(ヘムロック)』修道院で連続毒死事件に遭遇したフィデルマは、法の番人か一個人か立場の選択を迫られ迷いながらも人生最大の決断をする。
犯罪捜査の面で未成熟な古代を舞台にしながらも人間心理と物的手掛かりを巧みに絡めた魅力的な謎解きを構築し細やかな人情味の要素をも加えた作品はどれを取っても読後に必ず満足をもたらしてくれますが、欲を言えば更に突き抜けたトリッキーな独創性があれば良いなとも思います。まだまだ健筆な著者の今後に期待して未紹介の作品群が読める日を楽しみに待ちたいと思います。