ジヴォンの最高傑作と呼ぶには歌詞に文学的な精度が欠けているかもしれないが、本作の収録曲にはいっそうの重みが加わっている。録音時の状況が影響しているのだ。1983年なら、「The Rest of the Night」のような上機嫌のアンセムは何の変哲もない、快楽主義に向かうバカバカしいごたくとしか思われなかっただろうし、「Numb as a Statue」は自分の感情と折り合いをつけることができない飲んだくれの自虐的なジョークと化していたかもしれない。だが『The Wind』では、これらの歌はひたすら感動的だ。薬物投与で衰弱してはいるが、まだまだ「大いなる眠り」に屈するつもりのない男ならではの作品である。ボブ・ディランの「Knockin’ on Heaven’s Door」のカヴァーは、ジヴォンの危うい健康状態を本作中もっとも直接的に物語っているが、いちばん感動的なのはアルバムの最後を飾るアコースティックなバラード「Keep Me in Your Heart」だろう。スター・ミュージシャンが勢ぞろいしたスタジオ・ワークが完了したあと、ジヴォンが自宅で録音した曲だ。昨夜の盛大なお別れパーティーをジヴォンは確かに生き抜いた。再び朝を迎えた今、どんな1日が始まるのだろうか。(Keith Moerer, Amazon.com)