本書の最大の特長は、翻訳書では版権の関係などで掲載の難しい写真を豊富に使用している点である。実際に使われた企業の広告や製品パッケージ、展示会やショッピングモールなどのカラフルな写真が、原書の雰囲気をうまく伝えている。コダックのレンズ付きフィルムに見られる「機会による細分化」の例や、ギ・ラロッシュの広告に見られる「文化的環境に合わせた」広告表現の例は、本書で述べられている内容をうまく受けており、読者の理解を助けてくれる。
コトラーのマーケティング書すべてに共通することだが、本書もまた、マーケターが意思決定する際に役立つフレームワークを数多く提供してくれる。それぞれの市場をどう分析するか、市場をどう細分化し、どんな価格、流通手段、プロモーション手段で製品やサービスを伝え、提供するかなどといった話は、多くのマーケターあるいは経営者の欲するところだろう。
本書はいわゆる「バイブル」的な書であり、それだけに時代が変わっても移りゆくことのない普遍の原理について述べている。翻訳書ということもあり、事例には最先端の内容は望めないが、そのことを差し引いても学ぶ価値のある良書である。すべてのビジネスパーソン、あるいは今後、マーケティングを学ぼうとする人におすすめしたい1冊である。(土井英司)