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炭坑美人―闇を灯す女たち

価格: ¥2,625
カテゴリ: 単行本
ブランド: 築地書館
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 「硬山」と書いて「ボタ山」と読むらしい。山が硬いのは、石炭を採るときに出る無用のボタが、硬い岩石でできているせいだろう。
   発破を繰り返し、高さ一尺五寸(約45cm)という暗い坑道を掘るのが「先ヤマ」。これは男たちの仕事である。そして掘り出された黒光りする重たい石炭を、トロッコを使って逆向きに運び出す仕事を「後(あと)向き」と呼ぶ。1947(昭和22)年、マッカーサー指令によって女性の就労が禁止された危険な労働である。

   本書は、近代日本の成長を「後向き」として支えた炭坑婦たちに聞いたインタビュー集。登場する48人の生年は、最年長者が1898(明治31)年、若い人で1928(昭和3)年。取材はおおむね80年代末のバブル最盛期に行われているから、当時の年齢でいうといずれも60歳から90歳ほどの、「昔、山に下がった」お婆ちゃんたちということになる。

 「ボタ山」はすでに死語である。炭坑自体が今はほとんどない。にもかかわらず、本書が意外な「今」を感じさせるのは一体なぜか。
 「炭坑問題」がすでに歴史化したという「時の流れ」は確かにある。しかしそれよりも、「何でん来い。負けんとよ」という筑豊方言に象徴される女たちの生への強い肯定感が、「今」が抱える精神的な飢餓感や生命感の衰えを、強く揺さぶるからではないだろうか。

   著者はカメラマンであり、個々の語りの冒頭には先行者を慈しむかのような、女たちの柔和な記念の顔写真が配されている。時折混じった写真のない匿名希望者たちの不在感とあいまって、かつて「後向き」として生を刻んだその顔からは、女性史や社会労働史といった観点では出てこない、人間の持つある確実な連続性が感じられた。それをあえて「美人」とシャレる著者の気持ちには、いささかの嘘もないのではないか。(今野哲男)