歴史意識の強い良シリーズ
★★★★☆
ベックリーンは19世紀末のドイツ象徴主義を代表する画家である。彼の作品はメランコリックな画家の多いドイツ人の中でも、鑑賞者を陰鬱とさせるものが多い。《死の島》もその典型的な一作であろう。入るものを拒む絶壁の島。なぜに彼はこんなにも絶望しているのか。その背景を歴史的な文脈から読み解いていくのが本書である。ベックリーン研究としては別段珍しいものではないだろうが、よくまとめられていておもしろい。ベックリーン自体の知名度が低いので、入門書としてもありなのではないか。
私がベックリーンに大変な興味を覚えるのは、彼は基本的な部分ですごくフリードリヒに似ているのにもかかわらず、結果として表現したものが全く違うからだ。確かにフリードリヒの絵も一見して暗いが、フリードリヒの作品には必ず希望がある。ベックリーンにはない。圧倒的絶望がこの《死の島》には表現されている。また両者はフランス嫌いで共通し理性を倦んだが、フリードリヒは北方を志向したのに対し、ベックリーンは南方を志向した。その違いを生んでしまったものは何か。多くを占めるのはもちろん歴史的な事情であろう。19世紀の最初と最後では、一体何がどれだけ違ったのか。逆に変わらなかったものは何か。そういったものがこの比較から見えてくるはずだ。
ところでこれは『フリードリヒ【氷海】』と同シリーズの、ドイツのタッシェンが出している「作品とコンテクスト」シリーズの一冊である。このシリーズはおもしろい作品を取り上げるので好きなのだが、なぜだか薄い割に高い。もう少し安ければ、揃えてみようという気も起きるのだが。もしくは大判にするとか。