まずは、2003年1月~12月の一年間にわたって、一週間に一回、読売新聞に連載された「ミステリ十二か月」(「北村薫のミステリーの小部屋」を改題)から。不思議な謎と謎解きの論理を楽しむ本格ミステリを中心に、北村薫さんがセレクトしたミステリが50点紹介されています。北村さんが「このミステリはぜひ読んで欲しい」「このミステリは面白いんだよお」と選んだ作品が、その月ごとに設定したテーマに従って並べられています。「都筑道夫氏のミステリからは、これを持ってきたか」「ほほう。バリンジャーの作品はこっちを選びましたか」などなど、北村薫さん独自のセレクションがまず興味深かった。また、その作品の読みどころやミステリならではの妙味はどの辺にあるのか、そうしたことを平明な調子で語っていく紹介文にも親しみを持ちました。
そして、おしまいの第4部。有栖川有栖さんと北村薫さんの「全身本格」対談が、とても読みごたえがあって面白かった! 本格ミステリを愛してやまないおふたりの打ち解けた会話、時には火花がサッときらめく丁々発止のやり取りに、わくわくしながら読んでいきました。
北村さんが「アウト」と判定したミステリに対して有栖川さんが「セーフ」と言ったり、逆に北村さんが「面白かったなー」と挙げた作品を有栖川さんが「これこれだからダメです」と言ったりして。こうした見解の相違が明らかになる会話が、殊に刺激的でした。ミステリを味わうことでは互いに引けを取らない両名人が、本格ミステリという盤面を挟んで対局しているみたいな感じ。ついつい熱が入ってそれぞれの思いを語るおふたりがとても幸せそうに見えて、にこにこしちゃいました。