それぞれの作家の個性が生きた短編集
★★★★☆
当代の人気女性作家8人による短編集。
月刊『文芸春秋』に掲載されていたものばかりです。
短編の執筆は限られた枚数で一つの世界を作る作業ですから、
作家の個性が如実に現れる分野だと思います。
8編のなかで印象に残ったものを以下に取り上げます。
小川洋子さんの『巨人の接待』……いつもながらの、感覚的な小川ワールド。
文学の巨匠、強制収容所、絶滅した鳥たちといったモチーフがちりばめられていますが、
物語として今一つつかみどころのないまま終わってしまうのが残念。
高樹のぶ子さんの『夕陽と珊瑚』……良くある「老いらくの恋」ものかと思いつつ
読み進めると、ひねった結末に驚かされます。力量のある作家さんですね。
桐野夏生さんの『告白』……歴史物であり、悪夢のような怖さも感じる作品。
桐野さん独特の練られた文体と語り口が光っています。
高村薫さんの『カワイイ、アナタ』……実はこれが購入した大きな要因です。
合田雄一郎から義兄に宛てた手紙の体裁を取っていますが、心理描写の見事さと言い、
艶めいてしかも謎の残る結末と言い、読後もずんと心に残る内容です。
林真理子さんの『リハーサル』……52歳と女性としてのピークを過ぎた主人公の不倫の
心理を描いています。彼女に好感は抱けませんが、美貌の女性が老年に
向かう前の焦燥や、身勝手な独善性の描写は巧みです。
ほかの3編もそこそこの水準に達した作品ですので、
これらの作家のファンでない読者も、充分に楽しめる内容だと思います。