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むかし卓袱台があったころ (ちくま文庫)

価格: ¥1
カテゴリ: 文庫
ブランド: 筑摩書房
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2006年3月に亡くなられた名演出家で作家の久世光彦さんの名エッセイ集です ★★★★★
冒頭に書かれている「願わくば畳の上で」では、死に場所にこだわり、どのように亡くなりたいかが記されています。

「新聞の死亡記事を拾ってみたって、(少し略)申し合わせたように<心不全のため・・・都内の病院で>である。だから、たまに、<杉並区の自宅で>などと書いてあると、余計なお世話だがホッとする。しかし、そんな死に方もいまや僥倖のようなもので、(少し略)倒れれば、ものの五分で救急車が飛んでくる。嫌でも病院へ運ばれる。(少し略)家は、死に場所ではなくなってしまったのである。」

この文章を読みながら、世田谷区の自宅で亡くなられた久世さんはそう言う意味では本望だったでしょうね。久世さんの思いが通じたかのような、死に様だと言えると思います。突然の死が僥倖だったかどうかは分かりませんが、不思議ともいえるご自身の最期を演出されたわけで、名演出家の凄みすら感じました。

後半のエッセイでは、若き日の大江健三郎さんとの交友録も記されており、文章の巧みさと相俟って一気に読みました。昭和という懐かしい町や生活を、まるでドラマで再現するかのように記されたこれらの無駄のない文章は、その持っている知性と鋭い感性とをまるで万華鏡のような輝きを持つ文章として綴られていました。

久世さんは、森繁久弥さんの聴き取り書きの「大遺言書」を連載中でした。図らずもご本人の方が先に亡くなられたわけです。人生って不思議なものですね。