バランスのとれた立場からのコンパクトな概説書
★★★★★
要するにこれは、キケローについてのコンパクトな概説書。じゃ、例えばピエール・グリマルとかの概説書(文庫クセジュ『キケロ』)とどこが違うかというと、最大の違いは(著者自身が指摘しているんだけど)詳しい注がついていること。しかし、ちょっとコンパクト過ぎるくらいの本文に対してあまりに詳しい注で(本文160頁に対して注は46頁)、少しアンバランスだという印象をわたしは受けた。
しかしバランスということを言えば、筆者の立場という点でのバランスは非常にとれていたと思う。つまり、本書はタイトルが示す通り、政治家としての(哲学者や弁論家としての、ではなくて)キケローがどれほどのものだったか見極めようというもの。キケローに心酔して贔屓の引き倒しをするのもなく、カエサルを賛美してキケローを貶めるのでもなく、キケローの力量や限界点などをただしく評価しようという試みで、非常にバランスがとれた内容だった。例えば、塩野七生の描き出すカエサル&キケロー像なんて偏った理解の極みだから、ナナミストなどはぜひとも読むべき一冊ではないかと思う。