作家ウィルソンが徹底的にこだわっている作業、それは「代替現実」を生み出す事である。この「現実」がある程度までいわゆる「現実」からの避難所である事は確かだ。だがウィルソンは、劇作家バーナード・ショー直系の者として「強い想像力」を信じている。それは、人をして現実へといっそう雄雄しく向かわせしめる強い「憧れ」の力だ。従って、本書は単に戦士の休息所ではなく訓練所でもある。肉体的な勇気よりも鋭い感性よりも、思考力というものが重要である事をここで読者は心に叩き込まれる。思考力こそ、人間の生来の牙である。だが、この牙は現実そのものに「しか」突き立たない。従って、誇りある生き方はすべて実存哲学の試みである。この哲学には現実そのものを変容させる可能性が秘められているのだ。ウィルソンの著作がその最良の導き手であろうと僕が感じている事は言うまでも無い。

この作品は25世紀のお話。詳しい物語の説明は省きますが、ただのSFモノと思って読み始めるとビックリさせられます。私自身軽い気持ちで読み始めたんですが、すぐにその壮大な世界観に魅了され一気に最後まで読んでしまいました。要所要所に人間の心、というか精神についての作者の思想が織り込まれていて色々と考えさせられました。とにかく普通のSFファンタジーとは一線を画した興味深い作品だと言えるでしょう。

何の気なしに読み始めたのですが、１０ページも読んだ頃には、この本の虜になっていました。私にとっては、傑作SFファンタジーです。
最近の単語の羅列みたいな小説ではなく、しっかりとしたストーリーにまいってしまいました。

あまりこの種の本が出ていない講談社ノベルスから出版されたので意外な感じで、知らないSFファンもおおいのではないでしょうか。
７０年代、８０年代に濃厚なSFを読んできたみなさんには、とにかくおすすめの逸品です！

最高の思想家がファンタジーを書くとこんな素晴らしい作品になるということを教えてくれる。
誰でも子供の頃には感じていた、人生には確かに意味があるという認識をあらためて確認できた。私たちはどうして物事を面白いと感じたり、退屈なだけとしらけたりするのか。そんな問題の答えもこの本を読んでいるとおのずとわかるだろう。

普段ファンタジーを読まなくても、自分の熱かった時代を思い出したい、より充実した意識に目覚めたいと思うなら、すべての人におすすめです。