庶民の立場から税を見る
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「日本の税制は先進国中最悪です」。
本書表紙の下段には、このようなショッキングな見出しが掲げられています。それはこの間、所得税率の最高税率を大幅に引き下げたり、企業の税・社会保障負担(法人所得税+社会保険料)が極めて少なかったり、消費税の緩和措置を廃止したり、社会保障の負担増・給付減が続いたり…。大企業や高額所得者には大幅な減税と特例措置、一般庶民には増税と負担増・給付減を強いて、税による所得再配分機能を破壊し、むしろ税金によって格差を拡大してしまっているからです。国の所得政策によって格差が縮小せずにむしろ拡大している悲惨な国は、OECDの調査でも日本だけです。そのとんでもない税制のしくみと、政府、経済界のウソが本書の研究で明らかになります。
また、総合課税、累進税率、勤労所得軽課、不労所得重課、最低生活費非課税を原則に税制を見直して試算すると、現状よりも約20兆円の増収、公共事業や特別会計改革などによる無駄遣いを削減するとさらに約38兆円の経費が浮くという本書の試算はとても魅力的です。大企業に税金をつぎ込んだ経済政策がことごとく失敗し、景気浮揚につながらなかったばかりか、格差を拡大し、国民生活を深刻にしたという指摘も納得がいきます。スウェーデンの事例をあげて、納税者の納得する税金の使い方を提示し説明することこそ納税の原点であるという指摘は、まさに核心を突くものだと思います。
本書は解説が丁寧で、比較的文量が少ないので煩雑になりがちな税の話が苦手な人でも安心して読めるものです。何より、一般市民の視点が貫かれているので、単純明快、「そうそう」と相槌を打ってしまう箇所もあるでしょう。ぜひ、多くの人に読んでもらいたい本です。