本書は社会の偏見や持論に憑かれた性科学者の肉体的、精神的拷問に打ち勝ち、14歳で生まれながらにしてもった性を取り戻した青年の魂の記録である。著者のジョン・コラピントは数々の雑誌に寄稿するジャーナリストであるが、医学畑の家族に囲まれていることもあり、このケースに関する調査は徹底していて、性科学の読み物としても参考になる。だが、特筆すべきは、著者が序文で述べているように、この青年の物語に流れる「奇妙なまでに詩的な響き」だ。青年やその家族への100時間以上におよぶインタビューを通して、著者は鋭い洞察力で2つの性を生きた青年の心の叫びを静かに、しかし、力強く描ききっている。読み終えた後、ルソーの告白から引用された原書のタイトル『As Nature Made Him』(自然がつくったままの姿で)が心に残る。
本書の原作となったローリング・ストーン誌掲載の著者によるコラムは、全米雑誌賞を受賞している。ドリームワークスによる映画化も検討されていて、本書がどのように映像化されるのかとても興味深い。(野澤敦子)