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閑人生生 平成雑記帳2007~2009 (朝日文庫)

価格: ¥713
カテゴリ: 文庫
ブランド: 朝日新聞出版
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一貫した「物事の本質を突き詰めて、それを言語化する」姿勢が光る ★★★★★
雑誌「AERA」に2007〜2009年に連載された高村氏の時事評論を纏めたもの。小説においても、著者の政治批判姿勢や世相を分析する鋭い観察眼が読み取れるが、それが直裁的に綴られており、高村氏の思弁が率直に伝わって来る。時代毎の事象の俯瞰以上の考察。

本書の特長は、著者が高邁な思想を持ちながら、"普通の庶民"目線で素朴な疑問を徹底追及している点だろう。著者の根本姿勢は、"まかり通っている常識"を疑って、冷静な分析によって本質を衝く所にある。政治批判の他では、例えば毒入り餃子事件。我々は輸出元の管理体制を怪しむが、著者はむしろ、食糧自給率が低いと騒ぎながら「輸入してまで安い食材を入手し、豊かな食生活を満喫する」日本人の食文化のあり方を怪しむ。「敬老」の概念についても、常識に反して、「胡散臭い」と言い放ち、現代の人生観の歪みを論じる。「捕鯨問題」も心情を捨て、怜悧な論を展開する。特に、「人のこころを惑わせる桜」の論考は、社会的"決め事"の記号性と画一性の欺瞞を語って秀逸。「死は自分のものではない」を読むと、著者が"言葉の力"を信じている事が分かる。国家・個人間の問題を「欲望」と言う視点で切る鮮やかさも印象的。そして、全体的に"言葉"を大切にする姿勢と共に「人間の理性を信じたい」との想いが伝わって来る。逆に忌避するものは「無関心と思考停止」。また、世相を観る先見性には鋭いものがあって、「言葉の軽さ」、「沖縄問題」、「党首側近逮捕」等は、まさに現在を予見した論考と言って良い。

「新リア王」や「太陽を曳く馬」の執筆の合間に本論評が書かれたと思うが、両者は繋がっている。両方共「物事の本質を突き詰めて、それを言語化する」姿勢が一貫している。また現代において、高村氏はそれが出来る稀有な作家である。その思索・信条のエッセンスをエッセイ風の体裁で堪能出来る貴重な作品。
内容の充実したコラム集 ★★★★★
この本は、2007年7月から2009年7月まで雑誌『AERA』に掲載されたコラムをまとめたものです。
2年分のコラムは、サブタイトルにある『雑記帳』らしく、社会生活から世界経済までさまざまな事柄について書かれていますが、時系列で掲載されているので、社会のおおまかな流れを感じながら読む事ができます。
社会に対する疑念と怒りが根底にあるのか総じて辛辣な意見が多いのですが、共感できる部分も多く、また自分と違う意見に触れる事で過去の出来事を違う視点から見ることができました。
ひとつのコラムは3ページ程度ですが、しっかりした文章と構成とで書かれていて、充実したコラム集だと思います。