一つ一つの作品が独立した宇宙を持っていて、中にはショートショート的な短くも怖い話もある。
が、概して言えるのは、誰もが心の奥底に持っているような、幼年期から少年期にかけてふと感じた不安や心の闇を改めて喚起し、もう一度振りかえってみるような、不思議な郷愁めいたものを与えてくれることが多い。
これは作者自身がきわめて多感な少年時代を過ごしたからにちがいないと思われるが、おそらく多くの人がかつて感じたことがあるであろう「あの時のえもいわれぬ感じ・・・」が小説の中で、突如湧き上がってくるような書法には、恐れ入る。そう、この人の作品は、「あの」という代名詞を用いて説明せざるを得ない「あの感じ」こそが白眉なのだ。胸の琴線に触れる、そうとしか言い様のないものだ。
特に標題作は、竹本の得意ジャンルとも言える計算ジャンルの極めてユニークな小説だ。
4つの「4」から導かれる自然数たちを求める少年の探求心と、そのどんでん返しの鮮やかさには舌を巻く。
最後に余韻を引く淡い情緒の残る小品が多い。