日本で本格的にエジプト学が始められて,ようやく約35年(欧州では約150年)になるが,つい最近まで国内で出版される古代エジプト関係の本というと,「芸者・富士山」の如く「ツタンカーメン・ピラミッド」というのがその大半を占めていた。最近になって,本書を出版した原書房をはじめとして,いくつかの出版社からエジプト学を深く掘り下げた洋書の翻訳版が次々と出されるようになり,日本のエジプト学愛好家はエジプト学の様々な成果について自国語で触れることができるようになってきている。大いなる福音と言わねばならない。本書の内容には,国内のどのような本にも見あたらない情報が数多く含まれており,まさに類を見ない一冊と言ってよい。
本書は翻訳も優れており,内容的には申し分ないと言っても過言ではないが,編集の荒さが目に付き価値を落としている。1つには,「柱」がないため,五十音順の事典として利用する場合,目的の用語を探しづらい。2つめに,充実した索引が付けられているのだが,何らかの事情で頁がずれてしまったのか,該当する頁を指し示していないことが多い。折角の素晴らしい内容なのだから,改版の折りには是非これらの点を改善していただけることを切望するものである。
そのような疵はあり,高価な本でもあるが,それでもなお,エジプト学に興味のある方は一冊買って損はしないと断言できる素晴らしい内容である。