たとえば著者は、指示どおりに仕事をする人間はいらない、と松下幸之助に言われて「100の指示があれば、120にして返す」よう努めたエピソードを披露。「上司の指示通りのことしかやらなければ、それは上司の仕事にしかならない。また、その範囲でしか自分は成長しない」と説く。また、それが自主性や仕事への充実感、実力の向上につながるとも論じている。
こうして、後手の仕事をすればストレスがたまる、他人の能力に敬意を表すことが自分の成長につながる、肩書がつくことの意味をしっかり考えるべき、「従いつつ導く」ことが人間関係をよくする…といった多数のアドバイスが導かれている。いずれも松下幸之助との貴重なエピソードや、人間関係の具体的な場面から論じられているため、非常に説得力がある。
部下指導に関しては、「尋ねる」「説明させる」「権限を委譲する」などのノウハウ的なものも多いが、部下に対して「拝むような気持ち」をもつべきとか、部下は「上司という人間の存在を継承していく」といった単なるノウハウを超えた言葉も多い。上司として、また人間としての幅を広げるヒントになるだろう。
こうした透徹した人間観や自己を律する哲学などが、本書全体の基調になっている。中には厳しい注文も多いが、日々の部下指導や人材育成に悩む上司の心に響くはずだ。(棚上 勉)