タイトルが思い切り『防風林』であるこの小説は、ぼくの住むそんな札幌の新興住宅地を舞台に(地名は架空だけれども)、まるでトマス・H・ク!!ックの記憶シリーズのように叙情的に美しく綴られたミステリーである。そのリリシズムを作り上げているのが、真冬の防風林であり、降り続け、降り積もる果てしのない雪である。
死期の近い母の過去を尋ねて、帯広の丘を訪れたり、東京に出かけたりはするけれども、ほとんどが札幌のこの一区画を舞台に繰り広げられる。記憶の底にかすかに見える母の後ろ姿や、何気ない人々の昔語りの中に、徐々にかつてそこに起こった事件の陰がちらつき始める。もちろん呼んでいるうちに事件の内容については大抵想像がついてしまうのだが、最後の最後までミステリアスなのが、美しきヒロインのインナースペースであるところが、シックだなあとつくづく思う。
しかしこうした和製トマス・H・クックのような小説を、!!この人が書けるとはぼくは全然予期していなかった。もっとも、書くたびに前作とは傾向のかなり異なる小説を作ってきたという、少し予想しがたい面が永井するみと言う人にはあるのだれど。