真っ赤なパプリカをはじめ、玉ネギ、トマト、キウイやリンゴ、何でもちょっと加工して顔にする。目にはその名も「ブラック・アイ・ビーンズ」という豆が使われ、本当に目玉のよう。ピーマンのヘタを鼻に、凹凸で頬(ほお)、口をナイフで切って開けた、濃緑のすごみ顔。大写しになったイチゴのぼつぼつにゾクッ。エシャロットの色白女性たち、あでやかなルージュのハッとする口もとだ。
目や口への切れ目の入れ方ひとつで、表情が一変する。怒った顔、いたいけな顔、情けない顔、とぼけ顔、怖い顔。色の効果もあり、どの表情も迫真的。見慣れた物の変貌に、新鮮な驚きが満ちている。ジュースばかりで野菜や果物嫌いの子ども、貧血気味の女性に、目と耳からのビタミン補給としていかが?
詩人ビナードの、字数少なく温かで気の利いた日本語訳が、圧倒的なビジュアルを支える。誰もが考えつきそうなのに、ここまでパワー全開で押し出せなかった、アイデアの勝利。(中村えつこ)